アリエル・シャロン − かくして、彼は絶大になった

小田切拓

(岩波書店「世界2006.4」寄稿原稿)

■■■パレスチナは独立できるのか?

 最近では、地政学的に、そして経済的に見て、「パレスチナの独立は難しい」という、真っ当な指摘がされるようになってきた。

 たとえば、イスラエルのパレスチナ統治に関する地図を20年間製作してきたオランダ人地政学者ヤン・デヨンは、今のパレスチナを直視して、その今後について三つの方向性を示唆している。

  1. 国際社会が、永続的に支援するという形でパレスチナを支える。
  2. イスラエルが設置を急ぐ工業団地で、パレスチナ人が労働に従事する。
  3. イスラエルによる併合後、ヨルダン川西岸地区に残された地域が、隣国ヨルダンに吸収される。

 デヨンは、昨年9月にまとめた報告「The End of Two-State Solution」の序文でBの可能性を示唆している。

1. 2. については後述するが、自主的な経済活動ができない以上、それは独立とはいえない。

 3.にしても、パレスチナの独立とはいえないが、イスラエルによる間接的な支配から脱する可能性はある。

 隣接するメインランドに依存する形にする以外、西岸地区のパレスチナ人200万人の生活の維持は難しい。67年、イスラエルによる占領が始まるまでは、西岸地域はヨルダンによって管轄されていたという経緯もある。

 確かに、西岸地区を再度ヨルダンと併合することは難しいという意見も多い。

 現在もヨルダンの人口の半数以上はイスラエルによって西岸地区を追われたパレスチナ系である。さらに西岸地区からの移動が容易になれば、反アメリカ勢力が増長するという見方もある。ヨルダンの東隣にはイラクがある。ヨルダンという親米国家をイラクとパレスチナを直結させる中継地点にするなど、アメリカが認めない、という考え方も根強い。

 「ロードマップ」と称される国際社会が提示した新しい和平プロセスにしても、「合法的」入入植地の撤去には触れていない。一部の入植地の撤去が示されているが、この一部とは、イスラエル政府が「違法」と規定したものである。一般に、入植地はイスラエル政府によって「合法的」に設置されるものであり、そこに居住する約40万人のユダヤ人の退去を迫る合意文書はない。

 国際社会が、イスラエルによるパレスチナの占領や占領地への入植を非難し、制裁措置を行わない限り、事態に一応の決着をつける主導権はイスラエルにある。イスラエルが絶対的に強者である以上、今まで通りを続ければ、イスラエルはさらに西岸にユダヤ人を送り込み、併合地の拡大を図れる。

 イスラエル社会がパレスチナの独立を認める条件を提示するのを待つ。今考えられる限り、それしか解決策はないという見解が海外メディア関係者の本音になっている。それで、イスラエルへの対抗勢力について批判的なコメントする人間も多い。パレスチナにとっても紛争を続けることは消耗でしかない、どうせイスラエルにはかなわないのだから黙っておけ、という論理である。

 ハマスの台頭については、「和平」を振り出しに戻すような面倒なことはしないでほしい、となる。

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オマル・ムーサ × 小田切拓
(岩波書店「世界2006.8」寄稿原稿)
(岩波書店「世界2006.4」寄稿
(岩波書店「世界2004.5」寄稿原稿)
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