アリエル・シャロン − かくして、彼は絶大になった

小田切拓

(岩波書店「世界2006.4」寄稿原稿)

 アリエル・シャロンが、なぜイスラエルにとって<英雄>となり、そして1月4日に倒れた後は、急速に忘れ去られようといているのか、日本では、関係者ですら変化の速さに追いついていないように映る。

 「なぜ、シャロンは急に良い人になったのですか?」

 そんな声も多い。が、シャロンは何も変わっていない。実際には、彼が天才的政治手腕を発揮してイスラエルを圧倒的優位に導いたために、国際社会の彼への対応が変わったのだというべきであろう。

 「テロとの戦い」をしているというシャロンの主張は、正当性を持つものとして国際社会に迎え入れられる。他方、パレスチナの占領は不問にされつつあると言ってよい。

 国際社会は、パレスチナの本質的な独立という解決には程遠い、また、解決策だと見倣されるべきでもない「和平」を、あたかも唯一の解決策として肯定した。占領を終わらせるのではなく、被占領者を閉所に隔離することで「テロ」を起こりにくくする政策が、和平につながるというイスラエルの姿勢を支持した。

 アリエル・シャロンが、このイスラエルの「完勝」を演出した。

 「シャロンは、何をしたのだろうか?:という問いに答えるために、本稿では以下の点を重視したい。それは、「誰」が、「いつまで」パレスチナを食わせるのだろうか、ということである。

 占領を続けてパレスチナを疲弊させても、イスラエルは責任を追及されることがない。「一方的撤退」後には、逆に、和平に向けた前進という評価を下した、一部のイスラム諸国との関係正常化さえ始まっている。

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オマル・ムーサ × 小田切拓
(岩波書店「世界2006.8」寄稿原稿)
(岩波書店「世界2006.4」寄稿
(岩波書店「世界2004.5」寄稿原稿)
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