ハマスの6か月<民主主義>は、瓦解するのか

オマル・ムーサ × 小田切拓

(岩波書店「世界2006.8」寄稿原稿)

■■■ ハマス幹部に聞く

 5月末、ハマス政権のアッザハル外務相は、中国と22のアラブ諸国の外相クラスが北京で議論を交わすアラブ・中国フォーラムに、中国政府から招待を受け参加した。安保理常任理事国では、ロシアがハマスとの接触を持ち、すでに支援を約束しているように、アメリカの論理だけで「テロ」が定義されなくなり始めたことは確かだ。

 ハマスの幹部で、アメリカで博士号を取り、最近まで地政学者として大学で教鞭を執っていたのが、評議会スピーカー(実質的には議長であるが、大統領=議長が、評議会の議長もかねるため、混同をさけていると思われる)のアルドウェイクである。彼は5月下旬、私のインタビューの中で、アメリカについてこう語っている。

 「世界中が評価し、透明性が高く、自由に行われたと国連も認めたこの選挙結果を、アメリカ大統領は、反故にしようとした。ブッシュ大統領は、民主主義を広めようとしているはずが、偽善を行ってしまったといえる。アメリカ政府が、我々との交渉を持とうとせず、銀行や金融機関に圧力をかけているために、パレスチナは飢餓の危機にある。しかし、良心における危機に陥っているアメリカの方が、深刻である」

 現政権の幹部には、海外で高等教育を受けた人物が多い。アッザハルは外科医である。アルドウェイクは、ハマスへ参加する以前に政治犯としてイスラエルの法廷に立たされた際に、「英語で反論しても構わないか」と尋ね、却下されというエピソードで知られている。

 パレスチナで最大規模を誇るナジャフ大学の経済学部長を務めていたアブデルラゼク財務省は、BBCのインタビューに対し、以下のような見解を示している。(3月27日。組閣前日のこの時点では、アブデルラゼクは財務大臣就任予定者であった。)

 「”イスラエル“は何処かという定義付けがない。(そのため承認は難しい。)イスラエルといっても、どの段階のイスラエルを承認すればよいのかが問題である。(国連によって分割案が提示された)47年のイスラエル、(ヨルダン川西岸とガザを占領し始めた)67年当時、そして現在のイスラエルなのか。隔離壁の内側なのか、それとも外側なのか。定義されなければならない問題が数多くある」

 「我々は占領下にあり、世界中の全ての法が、占領に反対し、占領者は退去すべきであるとしている。(イスラエルによる)占領が終われば、我々は将来に向けて関係を築き、交渉に応じるが、基本原則については交渉の余地はない」

 現在外務大臣を務め、ハマスの最高幹部として知られるアッザハルは、04年のアフマッド・ヤシン、アブデルアジズ・アルランティシの相次ぐ暗殺の後、正式には発表されていないが、最高指導者になったと目されている人物である。

 欧米やイスラエルからの財政的な揺さぶりが加えられるなかで、政治が行えることは何なのか?

 少なくとも、ハマスに何がなしえるのかを確認するために、アッザハルへの接触を試みた。

 私は彼のオフィスで一時間半ほど待つことになった。彼は、一つひとつのレターにじっくり目を通していた。そして「緊急の仕事で、待たせて申し訳ない」と謝罪した。しばらくして、当面の業務を終えた外相は、短いインタビューに応じた。

 「私が今何をしているかわかるね。午後からは閣議。その後は別の会議で、5時間ほどかかるかもしれない」

 そしてデスクに手を置き、

 「仕事は山のようにある。国庫はカラ。財政も政府の業務も不正だらけで、再建と改革を、レベルゼロかそれ以下から行わなければならない。海外では大使館が惰眠を貪り、何もしない。これを活性化し、再生する。大使のほとんどが、何もせず、我が身の世話にかまけているばかりなのだから」

 彼は、外相に着任すると同時に知った腐敗のひどさを訴えたが、身振り手振りに顔の表情が加わった会話のスタイルは、パレスチナ人にとっては馴染み深いものだった。顔を上げて両腕を掲げ、何かを押し出すかのように両手を前に出して、こう言った。「我々は、この汚職を一掃しなければならない」

 最後に断固としたトーンで締め括った。

 「私はこの混乱を収め、改革を実行する。そのためにパレスチナ国民はわれわれに投票してくれたのだから」

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オマル・ムーサ × 小田切拓
(岩波書店「世界2006.8」寄稿原稿)
(岩波書店「世界2006.4」寄稿
(岩波書店「世界2004.5」寄稿原稿)
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