ハマスの6か月<民主主義>は、瓦解するのか

オマル・ムーサ × 小田切拓

(岩波書店「世界2006.8」寄稿原稿)

■■■ 「援助」とは?

 ハマス政権が正式にパレスチナ評議会の承認を受けた3月28日、パレスチナきっての論客であり、前大統領候補でもあったムスタファ・アルバルグーディ議員は、インタビューの中で「援助」と「オスロ合意」を関連付けた。

 「援助金拠出国と共にファタハが犯した最大の間違いが、6万人を超える規模の巨大な治安機構にある。これは、本来1万2000人で充分である。……この構造が、パレスチナ経済が<援助>に依存しなければならなくなった最大の理由である。(治安当局がこれほど巨大になったのは、オスロ後に)イスラエルで働いていたパレスチナ人の労働者が、この新たな機構(つまり警官)に加わることになったからで、彼らのサラリーを<援助>が支えてきた。つまり、イスラエルの占領はそのままで、イスラエルから国際社会に、雇用主が変わっただけである」

 アルバルグーディはさらに、民主主義が選んだハマスを、これまでの政権と同様に欧米は尊重すべきだと語った。支持母体に共産主義的色合いが強く、しかも非暴力主義を強く唱える彼でさえ、今のパレスチナの代表がハマスであることを、否定するどころか強く支持した。

 アメリカとEUの対パレスチナ支援額は約9億ドル、これはパレスチナの国家予算額と比較すると50%に当たる。ハマス政権の樹立で、突如、これを支払わないという声明が出された。国際機関を通じた人道援助などは継続される模様ではある。パレスチナへの物資の出入りはイスラエルが管轄するが、その際に代理徴収されパレスチナに支払われるべき関税など6.5億ドルも、イスラエルが支払いを拒んだために焦げ付いた。パレスチナ自身の税収4億ドルをはるかに凌ぐ金額が、欧米やイスラエルの管理下にある。

 パレスチナのGDPは40億ドルで、イスラエルの25分の1。人口が約半分であることを換算しても、一人当たりのGDPは12分の1以下である。イスラエルの通貨であるシェケル経済圏にあるため、人件費以外の主要産品の原価はイスラエルとそう変わらない。

 この前提で、EUからの「援助」が止まった。

 16万5000人という数は、パレスチナの労働者の19%であるが、その多くは、ファタハとの結びつきが強い。特に、約6万人の治安部隊のほとんどがファタハである。彼らの生活が苦しくなれば、矛先はEUでなくハマスに向かう。

 これまで、ファタハが公務員を増員し、配下に仕事を回し、その給与をEUが支払う構造になっていた。ハマスは、政権に就くことで多数の公務員は抱えたが、給料を支払うための資金がない。さらに7億ドルの財政赤字も引き継がされた。

 EUは、こうした構造を理解した上で支援を停止したと考えられる。仮に、政権がファタハに戻っても、「援助」で食いつなぐだけ、欧米による支配は強化されるだろう。

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オマル・ムーサ × 小田切拓
(岩波書店「世界2006.8」寄稿原稿)
(岩波書店「世界2006.4」寄稿
(岩波書店「世界2004.5」寄稿原稿)
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