ハマスの6か月<民主主義>は、瓦解するのか

オマル・ムーサ × 小田切拓

(岩波書店「世界2006.8」寄稿原稿)

■■■ 絶望的な努力

 選挙期間中から、ハマスは、自立経済を構築することを公約している。前政権はあまりに援助に頼りすぎた。前政権には、自立型パレスチナ経済に向けた経済戦略がなかった。ハマス主導政権は、そうした経済計画・戦略を熟慮してきた。

 しかし、その対策を打つまでもなく、「兵糧攻め」が始まった。現在、米国・イスラエル主導で実施されている国際的制裁によって、パレスチナ自治政府への送金が妨げられている。政府にとって最大の懸念材料は、16万5000人を超す政府職員の給与である。2006年3月はじめの政権発足以来、職員たちは給与を支払われていない。原資がない以上、ハマスは給与を未払いにするか、他の国に支援を仰ぐしか手段がない。

 パレスチナの内部からも圧力が強まってきている。ファタハ所属の政治家が、政府を転覆しよう、あるいは国民への基本サービスの執行が伴っていないと糾弾しよう、と動いている。

 ハマス政権は、アラブ・イスラム諸国に経済支援を呼びかけ、その結果、パレスチナ国民のために6億ドルを超える支援資金がすでに準備されている、と報じられている。が。海外からの送金停止がネックになっている。アラブ系を含む多くの銀行は米国やEUの報復を恐れて、当地への送金を行っていない。

 パレスチナ政府関係者が、多額の現金をバッグに入れて、ガザへの唯一の出入り口であるラファ検問所から持ち込むケースも起こっている。

 外相アッザハルは、6月中旬、国外から戻る際に、バッグ四つに入れた2000万ドルをラファ検問所に持ち込んだ。ファタハが管理するこの検問所の職員は、この資金を正式に財務省に引き渡した。6月初めには、約450万ドルが、ハマスのアブズフリ報道官から没収された。

 政府はこの金で何をしたのか?

 2000万ドルは国家警備隊を主とする政府職員9万7000人以上に給与として配分したとされる。政府は各職員に300ドル与え、残りの給与が支払われるまで何とかやりくりしてほしいと説明した。

 西岸の主要都市ラマラでは、給与遅配に対する職員の抗議デモが行われているが、参加者は多くないという。政府批判者にとっては、デモ参加者が多い方が都合が良かったのであろうが、大きなデモは起きなかった。

 実際には、毎週金曜日の昼の祈りの後にガザ地区一帯で、逆に政府支援のデモが行われている。また、宗教指導者などによって、生活苦にあえぐ人々への寄付を呼びかける運動が始まった。5月19日には、ガザ市中心部だけで、25万ドル(約2800万円)が集まっている。

 パレスチナ人の多くは国際社会から受ける不公正な扱い、特に資金凍結に落胆している。メディアは、民主的選択が理由で国民全体が「罰せられる」ことへの疑問を繰り返す。現政府は、パレスチナ国民が選択した政権である。したがって、その総意は、国際社会から尊重されるべきである、というものである。

 6月半ばには、ムーサ・アラブ連盟事務総長によって、「(ハマスによる)パレスチナ自治政府に、一刻も早く1億3000万ドル送金するための方法を模索している」という声明がなされた。一方、いわゆるカルテット(アメリカ、ロシア、国連、EU)の一員としてパレスチナ支援の再開を検討しているEUに対して、ハマス政権は、「支援は歓迎するが、無条件の場合に限る」という姿勢を崩していない。

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オマル・ムーサ × 小田切拓
(岩波書店「世界2006.8」寄稿原稿)
(岩波書店「世界2006.4」寄稿
(岩波書店「世界2004.5」寄稿原稿)
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